2年間売れなかった家に、まさかの買主が!【空き家レスキュー長野市平柴編③・完結】

「この家、本当に売れるかな……」

長野市平柴の空き家について、そんなことを考えていた時期がありました。

オーナーさんが別の不動産会社に売却を依頼したものの、約2年間売れなかった家です。

昭和42年築。

建物には傾きがあり、前面道路も狭い。

家財も残っていて、庭には木々が生い茂っていました。

前回の記事では、オーナーさんから「空き家バンクへの登録は、いったん保留で」というお返事をいただいたところまでお伝えしました。

私は「これは長期戦になるだろうな……」と思っていました。

ところが。

空き家レスキューは、何が起こるか分かりません。

ここから、まさかの展開が始まります。

「そういえば、あの人に聞いてみよう」

空き家バンク登録は、いったん保留。

そこで私は、何か別の方法がないか考えていました。

そんなとき、ふと思い出した人がいます。

昨年、長野市の別の田舎暮らし物件を購入してくださったTさんです。

関東在住のTさんとは、物件を購入していただいた後も、時々連絡を取り合っています。

以前、「長野市で、他にも空き家があったら情報ください」と言われていたことを思い出しました。

……あるじゃないですか、ちょうどいい物件が(笑)

Tさんなら、この家をどう見るだろう?

そう思った私は、平柴の物件資料を送ってみました。

「長野市平柴に、こんな物件がありますよ」

「価格もかなりお安いですよ」

そんな感じでメールを送ったところ、返信は意外なほど早いものでした。

「ぜひ見てみたいです」

そして、Tさんが関東から現地へ来てくださることになりました。

見学前に、まず庭をスッキリさせた

せっかく遠方から見に来ていただくのです。

少しでも、この家の良さが伝わる状態にしておきたい。

そこで私は、庭に手を入れることにしました。

庭全体を覆うように生えていた松などを伐採。

それまで少し薄暗かった庭に、光が入るようになりました。

空が見える。

敷地の広さも分かる。

何より、家全体が立派に見える。

家屋を改修することなく、パッと明るい印象にイメチェンしました(笑)

やっぱり庭って大事ですね。

ちょっとした手入れで「なんだか、この家いいかも」と思ってもらえることがあります。

そして、いよいよTさんがやって来ました。

「敷地が広くていいですね」

Tさんとは久しぶりの再会です。

まずは外から敷地を見てもらいました。

すると「広くていいですね!」。

そして「長野駅にも近いというのも大きいですね」。

そうなんです。

平柴という場所は、自然を感じられる一方で、長野市街地にも比較的近い。

そこは、この物件の大きな魅力です。

Tさんは敷地を眺めながら、

「この場所なら、所有していても色んな活用ができそうです」

「賃貸でもいいかな」

さらに、

「古い建物ですけど、DIYで補修していきます」

と話します。

おそらく多くの見学者さんは、

「古いですね…」

「ここも直さないと…」

「この傾きは大丈夫ですか?」

となるところです。

ところがTさん。

マイナスを見つけるたびに、なぜかプラスに変換していきます(笑)

「ここは“開かずの間”にします」

建物の中へ入ります。

家財が残っています。

埃っぽさもあります。

ところがTさん。

「片づけと掃除をしっかりやりますよ」

そして、

「ゴミ処理場まで何分くらいですか?」

と聞いてきました。

私は心の中で「もう買った後のこと考えてる?」と思いました(笑)

さらに、問題の部屋へ。

地盤沈下の影響で、柱や床が傾いている部屋です。

普通なら、ここで一気にテンションが下がってもおかしくありません。

ところがTさん。

部屋を見ながら「この部屋は封鎖して、“開かずの間”にします(笑)」。

さらに「外からジャッキアップとか、つっかえ棒とか。今以上に酷くならない方法を大工さんと相談してやってみます」と。

すごい。私は感心しました。

「どうしてダメなのか」だけでなく、「どうしたら活かせるのか」を考えている。

これって、空き家を再生するときに、とても大切な姿勢だと思います。

狭い道でも「軽自動車が入れるならOK」

この物件には、もう一つ気になるところがあります。

物件までの道が狭いことです。

一番狭いところで幅1.7mほど。

私も「この道幅、どうですかね?」と聞いてみました。

するとTさん。

「まぁ軽自動車が入れるから大丈夫でしょう」

……。

強い(笑)

普通なら「ちょっと狭くてムリですね…」で終わるところです。

でもTさんは「じゃあ、どう使うか」を考えている。

その姿を見ていて、私も見習わなきゃなぁと思いました。

これからの空き家レスキュー活動に必要なマインドですね、間違いなく。

物置倉庫で「お宝」を発見

一通り家を見たあと、敷地内にある古い物置倉庫へ。

2階建ての、かなり年季の入った建物です。

「ここも見てみましょうか」と、木製引き戸をガラガラ。

すると――。

梁に、何やら古びた布状の道具が掛かっています。

縄や金具も付いています。

「……何でしょうね、これ?」

どうやら、昔この家で牛を飼っていた時代に使われていた、牛に荷鞍や農具を付ける際の背当て(クッション)のようでした。

「すげぇ~!」

「これは、ある意味お宝じゃないですか!」

「すごい歴史を感じますね~」

などと、Tさんと盛り上がりました。

古びた物置の梁に残された、昔の牛具。

何十年も前、この場所で牛が働いていた。

田畑を耕していたのか。

荷物を運んでいたのか。

この道具を使って、誰かが毎日牛の世話をしていたのでしょう。

今は静かな物置ですが、ここにも確かに人の暮らしがあった。

「これは残しましょう」

二人の意見は一致しました(笑)

高価な骨董品かどうかは分かりません。

でも、これはこの家の歴史そのものです。

「お庭、キレイにしましたね」とお隣さん

それからも、Tさんと庭でワイワイ立ち話。

家屋のこと。

DIYのこと。

これからの使い方。

そんな話をしていると、お隣のお宅からご夫婦が出てきました。

「お庭、キレイにしましたね」

「あ、ありがとうございます!」

伐採したことに気づいてくださったようです。

お話を聞くと、お隣では庭で野菜を作ったり、リンゴを育てたりしています。

自然と世間話が始まりました。

そして、お隣のご主人から、

「うちも将来、この家をどうしようかと考えてましてね」

「売ったり貸したりできますかね?」

と。

私はTさんの方を見ながら、

「大丈夫ですよ。だって、実際ここにいますから(笑)」

と答えました。

Tさんも笑います。

なんとも和やかな、おしゃべりタイムになりました。

すると最後に、お隣のご夫婦が「よかったらどうぞ」と、リンゴをプレゼントしてくださったのです。

「お隣さん、優しい人で良かった」とTさん。

私はその言葉を聞いて、これも結構大きなポイントだなと思いました。

田舎の家を買うということは、その土地の空気や、周囲の人との関係も含めて「ここで暮らす」ということなのかもしれません。

この日の出来事は、Tさんにとっても嬉しいものだったに違いありません。

「この家、買います」

一通り見学を終え、私はTさんに尋ねました。

「どうですか?」

Tさんは間を置くことなく、「買います」と即決してくださいました。

私は即決に少し驚きました。

何しろ、この家には手を入れなければならないところがいくつもあります。

「本当に大丈夫ですか?」と、念のため確認しました。

するとTさん、

「ローンを組んで返済するわけじゃないから、買わない手はないですよ」

と。

なるほど。

自分で手を入れてもいい。

賃貸にしてもいい。

別の活用方法を考えてもいい。

この立地と広さを考えれば、十分に可能性がある。

同じ家を見ても「古いから大変そう」と考える人もいれば、

「古いからこそ、自分で面白くできる」と考える人もいます。

Tさんは、完全に後者でした。

そして、この家にとっては、そういう人が現れるのを待っていたのかもしれません。

オーナーさんにも嬉しい報告

オーナーさんにも結果をお伝えしました。

とても喜んでくださいました。

そして、こんな言葉をいただきました。

「庭木を切って、すっきりした庭を見たとき、これなら売れるんじゃないかと思いました」

「私の代で手放すことができて、本当に良かったです」

その言葉を聞き、私もホッとしました。

最初にご相談をいただいたときには「これは大変な案件になりそうだな……」と思っていました。

でも、最後には思いもよらないところから買主さんが現れ、無事に、次の持ち主へバトンタッチすることができました。

人と家をつなぐお仕事ができました。

空き家レスキュー平柴編、これにて完結です

長野市平柴のこの空き家を「可能性のある物件」として見てくれる人に出会えた。

オーナーさんからTさんへ。

いいご縁をお繋ぎできたのではないか。

私は、そう自負しています。

もちろん、これからがTさんのスタートです。

DIYでどこまで変わるのか。

「開かずの間」は本当に開かずのままなのか(笑)

あの古い物置はどうなるのか。

そして、庭ではどんなことが始まるのか。

私も楽しみにしています。

そして私は、季節が変わった頃、ひっそりと様子を見に行ってみようと思います。

もしかしたら、庭でTさんがDIYをしているかもしれません。

もしかしたら「開かずの間」が普通に開いているかもしれません(笑)

でも、それでいいのです。

空き家だった家に、また人の声が戻る。

それだけで十分です。

次はどんな家が、私のところへ相談に来るのか、ワクワクしながら待っています。

(了)